海外研修報告

材料科学特別研修Ⅰ

理学研究科物理学専攻 栗栖さん

今回僕は海外特別研修として、ドイツ・ダルムシュタット工科大学(TUD)へGP-MSの他の学生との集団訪問と、スイス・スイス連邦工科大学(ETH)への個人訪問に行ってきました。ドイツ・TUDはGP-MSの協定校であり、今回はプロジェクトの他のメンバーと共に、将来的な2大学間の新たな国際共同研究の創出も見据え、研究室ツアーや関連研究室での個別での議論に参加させていただきました。またスイス・ETHへは、以前からの共同研究者と現在の進捗および将来的な研究の方向性について議論するため訪問しました。移動含め9日間、非常に有意義で楽しい時間を過ごすことができました。

ドイツ・TUDはフランクフルトからバスで30分弱のダルムシュタットという、歴史ある学術都市といった雰囲気の町にあります。TUDへは市中心部の広場(写真1)からバスを利用しました。材料科学専攻のあるキャンパスは都市部からは離れた丘にあり、雰囲気としては東北大の工学部・理学部キャンパスとよく似ています。TUDではまずドイツでの大学・研究風土や、その中でTUDで研究を行うことのアドバンテージ等の説明を受けました。今ドイツの学生の間では留学先として東北大を含めた日本の大学が非常に人気らしく、これから国際共同研究などの方面からどんどん関係を深めていきたいという大きな熱意を感じました。その後、各学生が事前に希望を出していたTUDの教授と個別・専門的な議論を行いました。僕はただ一人、物理学専攻がある別のキャンパスへ移動して(写真2)、ソフトマター物理のProf. Emanuel Schneckと研究のプレゼンと議論をさせていただきました。彼とは指導教員も僕自身も面識がなく完全初対面で非常に緊張していたのですが、「この俺の面白い研究を見ろ!」という姿勢で話していたら非常に白熱した議論を交わすことができ(プレゼン内容は20分強程度分用意していたのですが、結局3時間弱議論していました)、あっという間に仲良くなりました。やはり研究者というもの、下手な英語より自分の研究の面白さとパッションで語ることが重要なようです。TUDの訪問では、初対面の研究者と積極的にコミュニケーションをとりながら自分の研究のアピールをするという、研究者の必須技能のいい練習ができたと感じました。

ドイツに足を踏み入れたのは初めてでしたが、スイス・ETHには共同研究の関係上何度も訪問しており、短期・長期含めて今回約5回目の訪問でした。材料科学専攻のProf. Peter Waldeはセメスター開始直後の多忙な時期でしたがたっぷりと時間をとってくれて、いろいろな方面の有意義な議論ができました。議論内容としては、昨年7-9月に僕が滞在していた後に任せていた測定が上手くいっていないという事でTEMの専門家と議論したり、日本での研究の進捗や、今後の方向性・論文の執筆、また研究以前の段階のアイディアの共有や分野全体の流れのような話もできました。特に今回強く感じたのが自分が研究者としてだいぶ成長を認められつつあるのかなという点です。最近Waldeさんの所に他の研究室からよく議論しに来るドクターの学生がいるのですが、「自分には分野的によくわからない所があるから彼の研究について議論してやってくれ」と言われ、訪問中に議論に加わったりもしました。当初はWaldeさんとだけ議論するつもりだったのですが、彼の部屋についた後でいろんな議論の予定が追加され、結果的に議論の幅が広がって楽しく過ごすことができました。

またもはや恒例となりつつあるのですが、今回も彼とDiscussion Tripに行きました。Discussion Tripとは文字通り、彼が頻繁に決行する研究の議論とスイス旅行を組み合わせた行事で、僕はそろそろ10回目になろうかという所です。スイスは九州より少し小さいくらいの面積で、鉄道やバス、船が非常にうまく連結されているのでチューリッヒから3時間で大体スイスのどこでも旅行に行けます。今回WaldeさんはCrans-Montana(クラン・モンタナ)というスイス西部のスキーリゾートでスキーダウンヒルのワールド杯を見に行く予定(写真3)だったので、急遽Discussion Tripとして僕も同行しました。電車内では車窓から雪景色を眺めながらお互いノートを片手に議論し、会場についてからは競技の待ち時間に口頭でできる議論をしするという感じです。またケーブルカーで標高3000m程度の山頂まで登ると、天気も良かったのでマッターホルンやモンブランまでよく見える非常に良い景色が広がっていました(写真4)。雪山に来るのに十分な装備は流石に持ってきていなかったので寒かったですが、多くのスイス人がここからスキーで次々と山中へと滑り降りていく様子はなかなか見ごたえがありました。今回のスイス滞在全体を通して、共同研究者であるWaldeさんと個人的な親交と議論を深めるとともに、彼を起点としてもう少し人間関係を広げることができたと思います。

ドイツとスイスでの滞在の様子を中心に、という事だったのであまり研究については書きませんでしたが、この海外研修を通して新しく知り合った研究者・以前から知り合いだった研究者の両方と非常に有意義な議論を行うことができました。その中でも今回はコミュニケーション能力の養成という点で特に大きな進歩があったように感じます。ドイツTUDでの、完全に初対面の研究者に対して自分の研究をアピールし、ディフェンスし、意気投合して一緒に議論するという成功体験は今回が初めてで、将来研究者として活躍する上で必要不可欠な能力の開発につながりそうな予感がします。またスイスETHではすでに親交のある研究者との交流を起点とし、新しい研究者との交流へと広げることができました。またその中で自分の成長が認められつつある様子を感じ取れたように思います。今回の海外研修での経験を起点とし、残りの博士課程での研究生活、その先での研究生活をさらに実りあるものにしていけるよう今後も励んでいこうと思います。


写真1:ダルムシュタットの中心地域


写真2:物理学専攻のあるキャンパス。市中心付近にありながら緑の豊かな公園に隣接しており、落ち着いた雰囲気。


写真3:クラン・モンタナ(Crans-Montana)でのスキー・ダウンヒルのワールド杯表彰式


写真4:ダウンヒル会場から山頂へ向かうケーブルカーの途中駅から

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